東京オペラ・レポート | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 3月24日(土)
 朝6時29分の快速に乗っていくつもりで目覚ましをかけ、そのとおりに起きた。
 なにい、6時40分!
 5時40分にかけたつもりが、1時間まちがえていたのである。あわてて6時55分の特急にのり、なんとか10時に麺工房「遊」についた。
 またもや「交通機関の呪縛」である。(切符はなくさなかったぞ)
 単身車椅子で山形からやってきたヤヨイは逆に1時間速い電車にのってしまったという。車椅子で上野駅をうろうろして1時間つぶし、えっちゃんとトシに迎えられた。
 オレとヤヨイを足して2で割ればいいのだが、オレのまわりにはADD(注意欠陥症)が多すぎる。
 「遊」の中庭で無事リハを終え、会場である目白のサロンへいく。一見ふつうのビルを3階へあがってびっくり、かなーりゴージャスな雰囲気である。
 このサロンにオペラとは、すばらしい組み合わせだ。おフランスな、おフランスざああますな、ハイソ感をただよわせている。
 プロのバイオリニストとピアニストの夫妻が運営する場所で、音響効果も抜群である。なにより目玉の飛びだすような金額であるグランドピアノは、日本一の調律師が手がけたという。
 オレのような下賤の者が弾いていいのかよ。小心者のオレはかなりビビリながらふたを開け、何度もお祈りしてからさわらせてもらった。
0703東京オペラ やよい photo by yoko

 オペラということで、ヤヨイはフリルのついた黒のドレス。オレはゴルチエのベルベットシャツ(中古で3000円だけど)で登場した。
 こころなしか、観客も緊張気味である。いったいなにがはじまるんだろう? という顔でこちらを見つめている。その気持ちはわかる。なにしろセルフストーリーオペラなんて世界中で誰もやったことのない前人未踏の領域だ。
 つくったオレ自身さえ、これがどういうものなのか、これからどういうことが起こるのか、わからない。
 観客もオペラにいったことのあるやつはほとんどいないだろう。まあそのほうがやりやすい。クラシックの絢爛豪華なオペラと比べられても困る。逆にオレたちはたったふたりで、絢爛豪華な精神世界へ観客を引きずりこむ。

 ヤヨイが親や恋人からの虐待、心の病や自殺未遂にいたるセルフストーリー(自分史)を語りはじめる。
 オレの歌とヤヨイの物語が交互に繰り返され、くんずほぐれつ、観客の感情を巻きこみながら、うなりをあげて生の歓喜へと昇華していく。
 
セルフストーリーオペラ「BRAVE HEART」

1 ぼくの居場所
2 いたいのいたいのとんでけ
3 リストカッター
4 War
5 Beautiful
6 Holy night
7 fragile(ピアノ)
8 Brave heart
9 祝福の歌
10生きてるって叫べ

 ラストは圧巻だった。
 ヤヨイはポイという鎖の先に火をつけて踊るファイヤーダンスの第一人者だった。自殺未遂によって全身の筋肉が溶け、ファイヤーダンスを踊れなくなる。車椅子に乗ったまま動かぬ両腕で鎖の先に蛍光塗料(火の代わり)をつけたポイをふりまわす。からんでも、落ちても必死で踊る。
0703東京オペラ やよい photo by yoko

 見ろ、これが生というものなんだ。
 無様でも、かっこわるくても、
 見ろ、これが生というものなんだ。
 必死で炎の踊りを舞いつづけるヤヨイの姿に観客は泣く。
 見ろ、これが生というものなんだ。
 誰もが胸が張り裂けんばかりの感情をこらえきれず泣く。
 バックでオレは歌う。

生きてるって叫べ
ぶさいくに
あふれる想いぶちまけてみろ
生きてるって叫べ
ぶざまでも
湧き出す愛を絞め殺すな
ほんとの声を聴かせてよ
きみのほんとの声を
飾らない ウソじゃない
なにもかくさない
きみの胸が脈打つ証を

生きてるって叫べ
がむしゃらに
つらい孤独耐えてきたこと
生きてるって叫べ
みじめでも
おびえる愛を見捨てるな
ほんとの声を聴かせてよ
きみのほんとの声を
ゆずれない ゆだねない
比べようのない
きみの胸が脈打つ証を

生きてるって叫べ
大空へ
世界はきみを祝福する
生きてるって叫べ
友たちへ
こごえる愛を抱きしめろ
ほんとの声を聴かせてよ
きみのほんとの声を
競わない いばらない
傷つけたくない
きみの胸が脈打つ証を

生きてるって叫べ
生きてる
生きてる
そう まぎれもなく
ここにオレたちは
生きてる

 第2部はヨウコの登場だ。
 ヨウコは静かにセルフストーリーを語りはじめる。
 父親やもと夫から虐待を受け、心をかたくなに閉ざしていた。去年の夏に乳ガンが発見され、「第3ステージB」という余命3ヵ月といわれる宣告を受けた。抗ガン剤治療で髪はすべて抜け落ち、副作用で体も心もぼろぼろになる。
 ヨウコはときどき声をつまらせながらも、気丈に語りつづける。オレの沖縄ライブを企画し、ステージごとにたくさんの人から祈ってもらった。すると最大期には12センチあったガンがわずか2ヵ月で5センチに縮まり、今では3センチになってきている。まだリンパへの転移などで予断を許さない状況だが、体は健康に回復し、髪の毛もカツラがいらないほどに伸びてきた。

セルフストーリーオペラ「祈りの歌」

1 ソウルメイト
2 心がくしゃみをした朝
3 青空のむこう(ピアノ)
4 NO EXIT
5 Unconditional love
6 Be your self
7 存在の歌(ピアノ)
8 ぬちどう宝
9 祈りの歌
10天使のkiss(電子ピアノ:パイプオルガン)

  新潟から清水くんがライブペインティングで参加してくれた。清水くんも恋人を自殺でなくし、その悲しみを創作へと転化させることができた人間だ。清水くんの描きあげた絵は光や生きる力に満ちているすばらしい傑作だった。
 もちろんヤヨイに劣らず、ヨウコの語りもすばらしかった。
 どんなに完璧な脚本より、セルフストーリーオペラの凄さはここにある。
 現実に死をくぐりぬけてきた人間の存在感に観客は圧倒され、生そのものと真剣に対峙させられるのだ。
 それはオペラなどというジャンルをはるかに超越し、演者も鑑賞者も一体になって経験する未体験ゾーンである。
 それはまさに、生の根元にふれる旅だった。
 
 ヨウコのオペラ「祈りの歌」は2回目である。
 去年の11月11日にやったとき、ハイビジョン鈴木のビデオカメラに白い靄が映り、演奏中拡大して、やがて消えていくという心霊現象のようなものが起こった。オレはこの現象を死者の好意的なメッセージと信じている。
 その初演作品DVDをハイビジョン鈴木が編集し、1枚2000円、30枚限定で販売する。売り上げは全額ヨウコの治療費にまわされる。ヨウコも助かるし、貴重なコレクションになるので、どしどしヨウコにメールで申し込んでください。
 心霊ビデオは怖いという方はヨウコの美味しいお菓子をぜひぜひご注文ください。

 3月25日(日)
 朝からすさまじいどしゃ降りだ。
 麺工房「遊」では、巨大縁側にブルーシートで屋根をつけた。昼から遊市楼(ゆういちろう)」というイベントには、弟子あつしによるスモーク料理、オーガニック・コヒー、天然酵母のパン、はんこ彫りや尺八づくりや草木染めのワークショップ、タイマッサージやチベットヒーリング、ネイティブアメリカンのカード占いなどおもしろいもんが盛りだくさんだった。
 ネアリカのワークショップにもたくさんの人が参加してくれ、すばらしい作品を2枚仕上げた。
0703ネアリカオペラ

 夕方からのオペラ「虹の輪」には、雨にも負けずすごい人数がつめかける。40名の予定だったが、60人もの観客が「屈葬」のようにひざを折り曲げて座敷にひしめいた。
 今日は出演者も多い。宮古島からタマミ先生、むっちゃん先生、マコト先生、マリ先生にくわえ、ベーシストのリュウも参加する。
 先生たちの演技力に観客たちは目をみはる。「この人たちプロ?」「演劇学校出身?」などとたずねられたくらい迫真の演技なのだ。ナレーターのヨウコとキーボードでBGMを演奏しながら海亀役をこなすマコト先生はマイクをつけたが、主役のタマミ先生、妖怪役のむっちゃん先生、敵役のマリ先生はノーマイクでも充分の大声である。
0703虹の輪

「虹の輪」
1 マーマレードスカイ
2 家族
3 背中
4 旅立ちの歌
5 Reincarnation
6 alone
7 ミタクオヤシン
8 Hallo my mom
9 Born to love
10 虹の戦士
11 Happy birthday

 「虹の輪」は大人も子供も楽しめる寓話だが、むしろオレのセルフストーリーと言ってもいい。
 虹の国を闇の国が征服したことによって、少年イリスの父が自殺、母が誘拐される。虹の戦士少年イリスが七つの島を旅しながら、知恵を学び、虹を奪還する。
 この物語のクライマックスは今までの神話とはまったくちがう。
 悪役である闇の国はマジョリティーから蔑まれ、嫌われ、呪われた存在だった。ふつうの神話なら悪役をやっつけてめでたしめでたしである。しかしオレはそんな勧善懲悪のストーリーなどつくらない。
 なんとラストはイリスの歌「Born to love」によって、
 敵同士が「和解」するのだ。
 憎しみ合い、殺し合っていた兵士たちが、おたがい同じ血を流し、同じ痛みを抱え、家族や友人を愛する者として目覚める。
 オレが47年間生きてきて到達した境地は、「勝利」ではなく「和解」なのだ。
 光は闇によって輝き、闇は光によってやすらぐ。
 光と闇が和解することによって、現在のような昼と夜の世界が生まれる。
 「虹の輪」は寓話に擬態した今現在オレたちが生きている世界の物語であり、オレたちが模索する未来のため必要なネイティブの智恵がちりばめられている。
 また自画自賛するが、よくもこれだけ深遠な物語を子供でもわかるシンプルな形で書き上げたのもである。
 はじめてオペラにふれたお客さんも大絶賛してくれた。やっぱ宮古島の先生たちはすごいわ。また同じメンバーで新作をやろうと約束した。
 最後に「まだ歌詞がブログにのっていない」と言われた新曲「家族」をのせよう。
 まさにこの3本のオペラにきてくれたみんなは魂の家族だから。

「家族」

きみがこの世にやってきた日
ママは命をふりしぼった
うめき踏んばり 叫びながら
きみを産み落とした

パパはおろおろするばかりで
ママの手をぎゅっと握ってた
きみと家族になれることが
うれしくて泣いた

くりかえせ かえせ 
くりかえせる 螺旋の輪
くりかえし かえし 
くりかえして 学んでく

ぼくらは家族だね
ぼくらは家族だね
近すぎてきみが見えなかった
わかりあえなくても
認めあえなくても
世界できみだけの家族

きみがこの世をうらんだとき
ママは自分を責めつづけた
悩み とまどい 家を捨てて
きみをおきざった

パパは自分が情けなくて
いつもお酒に逃げつづけた
愛がねじれてしまうままに
きみをなぐってた

くりかえせ かえせ 
くりかえせる 螺旋の輪
くりかえし かえし 
くりかえして 学んでく

ぼくらは家族だね
ぼくらは家族だね
似すぎてて君に目をそむけた
許しあえなくても
愛しあえなくても
世界できみだけの家族

ママがこの世を去っていく日
パパもいっしょに
死にたかった
何度わびてもすまないけど
ママを愛してた

家族はたがいの人生を
背負い歩いてくさだめなら
重く苦しい旅だったけど
きみに会えてよかった

くりかえせ かえせ 
くりかえせる 螺旋の輪
くりかえし かえし 
くりかえして 学んでく

ぼくらは家族だね
ぼくらは家族だね
ありがとうときみに
言えなかった
傷つけあったけど
憎しみあったけど
世界できみだけの家族

ぼくらは家族だね ぼくらは家族だね
ぼくらは家族だね ぼくらは家族だね
ぼくらは家族だね ぼくらは家族だね
ぼくらは家族だね ぼくらは家族だね

きみがこの世にやってきた日
ママは命をふりしぼった
うめき踏んばり 叫びながら
きみを産み落とした

パパはおろおろするばかりで
ママの手をぎゅっと握ってた
きみと家族になれることが
うれしくて泣いた
きみと家族になれることが
うれしくて泣いた
うれしくて泣いた