ふみちゃん追悼ネアリカ | New 天の邪鬼日記

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小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 6月24日(日)ふみちゃん追悼ネアリカ
 うわー、またもや遅刻だあー。
 と思ったら、横須加中央のホームで美雪とでくわす。なんだよ、主催者がふたりとも遅刻かよ。昼の12時半、横須賀汐入にあるふみちゃんの実家にたどり着いた。
 ふみちゃんのお母さんとお父さんが笑顔で迎えてくれる。
「不謹慎かもしれませんが、もう今日が楽しみで、楽しみで」
 2階へ上がると、もうかなりの人が集まっているではないの。 ネアリカに参加した懐かしいメンバーとも3年ぶりの再会を喜び合う。ふみちゃんに会ったことのない人が集まってくれるのもうれしい。なかでもまゆはつい先日お父さんを亡くしたばかりだ。きっとまゆのお父さんも雲のうえからふみちゃんと肩を組んでオレたちを見守っているだろう。
 ふみちゃんはオレがネットで募集したネアリカ(毛糸絵画)のボランティアに11回も参加してくれた。自ら「ひきこもりです」と紹介したのに、いつもみんなと気軽におしゃべりし、和気あいあいとネアリカを貼っていた。
 ふみちゃんが地元の芸術祭にナナオサカキさんを招いたときのことばを美雪がネットでみつけてきて朗読する。

「僕は以前、とあるアーティストの作品製作ボランティアに参加したことがあります。そのアーティストは大きなキャンバスにいろんな色の毛糸を貼り付けて絵を作っていくのですけど、たいへん手間のかかる作業なのでボランティアを募ってみんなでわいわいがやがや毛糸を貼り付けていきます。そこには全国からいろんな人がボランティアとして集まってきていて、行くたびに楽しくて驚きにみちた出会いがありました。この経験を通して僕はアートって個人の思いを表現するだけじゃなく、人と人を結びつける力があるんだなって思いました。今度の芸術祭でもアートを通じてたくさんの人と出会いたいと思います」

 タクヤのディジュリドゥーがオープニングを飾る。アボリジニはディジュリドゥーによって、神と会話する。いわば死者との受話器みたいなもんだ。湖面走るそよ風のような音色が人々の心をやさしくつんんでいく。森を揺らす息づかいは、まさに死者への鎮魂、生者への祝福、慈愛と歓喜に満ちていた。
 微笑みは涙を吸って花咲く。
 演奏が終わったとき、みんなのほほが静かに濡れていた。
「うわーネアリカしたいなー。でもダイさんの写真展でこれからパチカ村でライブなんですよ。わっ、もう遅刻ですよー」
 はっはっは、タクヤはマジ後ろ髪を引かれながらあわただしく去っていった。
 ふみちゃんの両親には「おかまいなく」と言っていたのに、焼き鳥やら枝豆がつぎつぎと運ばれてくる。みんなも「お腹すいてません」とか言っていたくせにハゲタカのごとくふさぼりつく。 ふみちゃんの妹夫婦ヤエちゃん&壮二郎さんの買ってきてくれたハーゲンダーツのアイスクリームまでとどいた。
「冷凍庫にはいりきらないから食べちゃって」
 さすがふみちゃんのお母さんだ。
 ネアリカはムーミンをモチーフにした。 
 ふみちゃんは、「ふーみん」というあだ名で呼ばれていた。なんともいえないほんわかした雰囲気で、ふみちゃんといるとなぜかまわりまでなごんでしまうというムードメーカーだった。
 田口ランディさんにふみちゃんの死を知らせたとき、こんなメールが返ってきたんだ。
「ふみちゃんは静かでにこにこしていて、ムーミンみたいで大好きでした」
 ふみちゃんはオレやランディさんといっしょに北海道浦河にある「べてるの家」にいったし、ランディさんは、かつてふみちゃんが飼っていた犬について書いた文章にぼろぼろ泣いたと言っていた。
 こりゃあもうムーミンでしょう。しまいにはお母さんまで「そういえば似てるわね」と言いはじめている。 
 先日仙台のアーティストスウィックたちと制作したはなびへのネアリカと2班に分かれて貼っていく。最年少10歳の壮一郎(幾何楽堂・小坂さんの息子)も足がしびれた~といいながら黙々と貼り、小坂さんの奥さんまっちゃんもけっこう好きみたいといいながら没頭している。
 ネアリカのいいところは世間話をしながらできるところだ。手だけをせっせと動かし、ひさしぶりの再会に近況を報告しあったり、自己紹介したり、それぞれの会話がつながっていく。やってもやらなくてもいい、職や身分など知らなくても共同で作業することで輪ができていくのがネアリカの醍醐味なのだ。
0706ふみちゃん追悼ネアリカ

 約4時間があっという間にたつ。それぞれのペースで進めていた2つが出来上がったのはなんと同時だった! 大きな拍手が沸き起こり、みんなの顔に満面の笑みが浮かぶ。そうそう、ふみちゃんが見たかったのはみんなのこの笑顔なんだ。
 ジャーン! ムーミン、ふみちゃんにそっくりでしょ。緑の風船はみんなの夢がつまってはち切れそうだ。
0706ふみちゃん追悼ネアリカ

 「レインボーサーペント」最高でしょ! はなび、手術がんばってね。みんなの祈りがこもってるよ。
0706ふみちゃん追悼ネアリカ

 ふみちゃんが好きだったというピザを電話で注文し、「ピザ待ちライブ」をおこなう。

 1 雲の上はいつも晴れだから
 2 存在の歌
 3 Reincanation
 4 もしも僕が死んだら

もしもぼくが死んだら
笑顔で見送ってちょうだい
涙は君に似合わない
泣き顔なんてしまんない
いやでもあの世で会えるから

もしもぼくが死んだら
川にでも流してやってちょうだい
墓石なんていらない
葬式なんてくだんない
墓場は丸ごと地球だから

Say see You again 今世はありがと
Say see You again 来世もよろしく

もしもぼくが死んだら
みんなであざ笑ってちょうだい
最後まで救いようのない
こんなバカ見たことはない
陽気に飲んで歌ってちょうだい

もしもぼくが死んだら
「幸せもん」とねたんでちょうだい
後悔なんてはやんない
未練は鼻クソほどもない
なぜなら君に出会えたから

もしもぼくが死んだら
シカバネ踏み越えてってちょうだい
いけないとこはどこもない
やれないことはなにもない
そのまま 素のまま 我がままに

もしもぼくが死んだら
みんな仲良くやってちょうだい
憎しみなんてつづかない
わかりあえないはずはない
愛し合うために生きてるんだ

Say see You again 今世はありがと
Say see You again 来世もよろしく

Say少納言 春はあけぼの
Say夷大将軍アイヌネノアンアイヌ(アイヌ語で「人間らしい人間」)

Say see You again マジでありがと
Say see You again んじゃまたよろしく

Adios amigos!

 うおー、もう歌の途中でピザが運ばれてくる。みんな目からは涙を流し、鼻はピザの匂いにひくついている。がっはっは、まさに死と生を同時に感じる憎い演出をふみちゃんがやってくれるなあ。
「生きるためには、食えということでしょう」
 オレも歌なんか歌っている場合じゃない。みんな歓声をあげて食らいつく。
 ヨウコがぜひ読みたいと絵本「ブリキの音符」を朗読し、macossaの歌がつづく。
 陶芸家のHACCHIが話しはじめた。
「ふみちゃんには会ったことがないのですが、かつてわたしは弱い立場にあるひとにむかってあなたは逃げてるとか、がんばらなくちゃだめと言ってきたのを思い出しました」
 HACCHIは声をつまらせてつづける。
「だけど本当にそのひとの立場にたって考えていたのかを思うと心が痛みます。みんなそれぞれの痛みを抱えていて、それを社会の基準とかに合わせるのではなく、おたがいに理解し合うところからちがい人と人がつながっていくんだと今日、ふみちゃんから教わった気がします」
 するとふみちゃんのお母さんが口を開いた。
「じつはわたしもはじめは同じ気持ちでした。なかなか学校や職場の輪にとけこめない息子を心配し、うちの息子は人より劣っているんじゃないかと思ったこともあります。しかし息子の接していて少しずつ考えが変わってきたんです。世間の標準とはちがうけれど、わたしたち家族が幸せだと感じられるのならばいいじゃないかと。幸せにはいろいろな形があります。たとえ一定の仕事に就けなくても、こうして毎日息子と顔を合わせていられるなんて、他の家庭じゃなかなかないでしょう」
 ふみちゃんの部屋は一階にあり、自分部屋のドアは開けっ放しで、両親もふつうに出入りしていたという。
 博物館で考古学の学芸員をしていたお父さんが口を開く。
「息子は友達も少なくてなんてかわいそうな子だろうという視点で見ていた気がするけど、お葬式でもたくさんの友達がきてくれたし、今日もこんな友達がいたなんて驚いています」
 白髪に黒縁メガネのお父さんは、誰かに似ていると思ったら、松本清張とそっくりだ(笑)。オレが言う。
「いやいや、コミュニケーションがとれないどころか、ふみちゃんはオレのネアリマスパーティーを主催したり、最高のムードメーカーでした。時間に追われる日常から逃れるように集まってきた仲間のなかでふみちゃんがいるととてもゆったりとしたオーラにつつまれるんです。まるで本当の時間はこんなにゆっくり流れているんだよ、みんなもっとのんびりしていいんだよって無言で教えてくれてるような存在でした」
「そうそう、息子はいつも日光へいってくるって浮き浮きしながら出かけていきました。今日やっと息子の気持ちがわかったような気がします。だってこんなに素敵なお友だちが待ってくれていたんですもの」
 お母さんの言葉にみんなが涙ぐむ。
「今日はわたしまで子供にかえってネアリカを楽しんでしまいました。こんなに楽しいんなら、わたしもいっしょに出かけていけばよかったって」
 今度はみんなが笑った。泣いたり笑ったりいそがしいぞ。
「ふみちゃんの本当の死因を知っていますか?」
 オレが投げかけた謎の言葉にみんなが目をパチクリする。
「なぜふみちゃんがこのタイミングで死を選んだのか本当の理由を教えましょう」
 みんな真顔でオレを見つめる。一呼吸おいて、もったいぶりながらオレは言い放った。
「ここでみんなを出会わせるためです!」
 みんなの顔がにんまりと微笑む。
「死者の仕事は生者たちを見守り、出会わせることなんです。今日もみんなそれどれの事情でここへきたけど、完全にふみちゃんに操られてるね」
 美雪が徹夜でつくったという詩集は、オレの100曲の歌から、ふみちゃんの捧げるフレーズを抜粋したものだ。それを両親にプレゼントする。その詩集のなかからさらにリクエストに応えてオレは歌った。


 6 家族
 7 今日は死ぬのにもってこいの日だ
 8 旅立ちの歌


「死は決して終わりなんかじゃない。ソウルメイトはいやでもまた会えるのだから。また会おうぜって笑顔で見送ろう!」

「今日は死ぬのにもってこいの日」

おまえが生まれるとき
世界は笑い
おまえは泣く
おまえが死ぬとき
世界は泣き
おまえは笑う

Today is a very good day to die
愛する恋人よ
旅立ちの時がきた
Today is a very good day to die
父なる太陽と
母の大地へ返る

What a peaceful mind
空は澄みわたり
What a beautiful world
風が歌いだす

おまえが生まれるとき
世界は笑い
おまえは泣く
おまえが死ぬとき
世界は泣き
おまえは笑う

Today is a very good day to die
愛する友たちよ
見送りの時がきた
Today is a very good day to die
今度も楽しかった
つぎはもっとよくなるさ

What a peaceful mind
命は贈り物
What a beautiful world
おまえにゆずろう

おまえが生まれるとき
世界は笑い
おまえは泣く
おまえが死ぬとき
世界は泣き
おまえは笑う

Today is a very good day to die
愛する子どもたちよ
別れの時がきた
Today is a very good day to die
素敵な夢だった
愛しすぎる夢だった

What a peaceful mind
自分を知るものは
What a beautiful world
死を恐れない

おまえが生まれるとき
世界は笑い
おまえは泣く
おまえが死ぬとき
世界は泣き
おまえは笑う

さよならなんていらない
いつか帰ってくる
ここへ帰ってくる
さよならなんていらない
また憎み合うために
また愛し合うために

おまえが生まれるとき
世界は笑い
おまえは泣く
おまえが死ぬとき
世界は泣き
おまえは笑う

 とびきり素敵なご両親、ふみちゃんのために集まってくれた、タクヤ、MIGIRU、みちちょふ、chie、HACCHI、まみ、まつこ、壮一郎、としひろ、太一、まゆ、macossa、ヨウコ、美雪、
 参加はできなかったけど気持ちを送ってくれたたくさんの人たち、心からイアイライケレ(アイヌ語でありがとう)。
 そしてあの世でもネアリカやろうぜ、ふーみん!
0706ムーミン