という格言が……ないが、何日間も引きこもり、昼夜もなく、1本のマイクというリンガ（シバ神の男根）にむかって祈りつづけるという狂った宗教行事である。
とーるは6時間ぶっとおしでピアノの同じフレーズを弾きつづけ、オレは8時間ぶっとおしで「家族」を歌いつづけ、「ダンシング・ブッダ」という曲の「Get higher. Get higher. Get higher. （ハイになれ、ハイになれ）ギャーーーーー！」というフレーズを夜中の3時に叫びつづける。よこでＭＴＲ（録音卓）を操作するとーるがふと我に返る。
「……こんな48歳見たことない」
オレが必死で叫んでいる姿を見て笑い転げる。
「Get higher. Get higher. Get higher. （ハイになれ、ハイになれ）ギャーーーーー！」
夜中の3時だろうが、警察署のまん前だろうが、ご近所が寝静まっていようが、納得するテイクが録れるまで妥協は許されない。
「Get higher. Get higher. Get higher. （ハイになれ、ハイになれ）ギャーーーーー！」
しかもこのフレーズは常人ではだせない超高音Ｃのキーなので、オレは眉間の筋が切れそうになりながら歌い直す。
「Get higher. Get higher. Get higher. （ハイになれ、ハイになれ）ギャーーーーー！」
われわれはふたりのマルチプレーヤーコンビを「チーム二千手観音」と呼んでいる。
とーるはギター、ベース、ピアノ、カホン、シンバル、タンバリンなどすべての楽器を演奏し、編曲し、録音する。ときどき屋根を直したり、アンテナを立てたり、ピザもつくる。
イタリアンぴちょんくん（約してＩＰ）
全粒粉入りの生地から練り上げるアンチョビとシシリアンサラミのピザ。とーるが楽器を録音しているあいだ、オレはフォトショップとイラストレーターを駆使し、ジャケットデザインや歌詞カードをつくる。ときどきブログも書き、卓球もする。
今回のアルバムは「DISCOVERY」という業者をとおして製作するので、細かいデザインの入稿規定にあわせなければならない。今までのジャケットは家内制手工業でつくっていたので、イラストレーターをちゃんと学習し直さなければいけないのだ。そこでいい教科書になったのが「動画マニュアルcom」だ。動画でコンピューターソフトの使いかたなどが説明されている便利なホームページだよ。
「家族」という代表曲がはいったので、さんざん悩んだ末、父が撮ったモノクロ写真を採用することにした。母に導かれ3歳のオレが東照宮で立ちションベンしているショットだ。父が撮った無数の写真の中でもベスト作品だ。ルネッサンスばりの「Ｘ構図」といい、ありえないほど偶然を味方につけている。その上向き角度といい、激しい勢いといい、45年後を予言しているようでもある。
バックインザレイという裏ジャケ写真もつく。表紙に合わせて茶系の服を選び、撮影用のレフ・ライトをセットし、とーるが撮影する。
「ねえポッキー、売れないカントリー歌手みたいですね」
「うるさいぞ、ぴちょんくん！ つべこべ言うと家族のアレンジをカントリーロード風にやり直させるぞ」
「ひえっ、録り直しより、屋根直しのほうがましです」
ＣＤ盤面のデザインは2色刷りなので、ノスタルジックな昭和のレコード風にしてみた。
音圧（音量）を市販のＣＤなみに上げたり、曲間を調整したり、ノイズを除去するマスタリングも業者に依頼するので、ＣＤプレス、ジャケット印刷、組み立て、キャラメル包装など、1000枚で20万ほどかかるが、あまりにもすばらしい楽曲に仕上がったので、完璧な形でみんなにとどけたい。業者が1ヶ月ほどかかるので、5月中にはリリースできるだろう。
ライブをするたびに『家族』や『背中』や『今日は死ぬのにもってこいの日だ』は、「どのアルバムに入っているんですか？」と聞かれつづけてきたので、やっと胸をなでおろす思いだ。
ついに珠玉の全11曲（53分）がここに仕上がった。
1.家族
2.Walking in the rain
3.たったひとつの命
4.背中
5.幸せのアリカ
6.愛のカタチ
7.Dancing BUDDHA
8.シャンティー
9.絆
10.Life is beautiful
11.今日は死ぬのにもってこいの日だ
「よし、ぴちょんくん、完成を祝って記念撮影だ」
「やっぱ記念撮影はタキシードとか、ネクタイでかっこよく決めたいですね」
「なにを言っとる、ぴちょんくん。われわれのフォーマルウエアといえば、これしかないじゃないか」
「Get higher. Get higher. Get higher. （ハイになれ、ハイになれ）ギャーーーーー！」