落石事故 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

5月19日(月)
「オレ、宝くじも買ったことねえし、お年玉つき年賀状も当選とか調べたことねえし」
ライブのあとセブンイレブンでタバコを3箱(700円以上)買うとクジがひけるという。箱の中に手を入れ、てきとーにカードをひっぱりだした。
「当たりーでーす! ビール一本」店員が叫ぶ。
「おおー、マジ。やっぱいいライブやったんで神様の贈り物だな」
「じゃあぼくも3箱買おう」とーるが言う。
「柳の下にどじょうは2匹いないぞ。オレが当たったばかりなのに、つぎのやつがつづけて当たるわけねーじゃん」
オレがとーるをあざ笑っていると。
「わあー、また当たりーでーす! チュウハイ一本」
「ええー、これってぜんぶ当たりなんじゃないですか?」オレが聞いた。
「いいえ、かなり難しい確率ですよ。しかも2人つづけてなんて、はじめてです」
驚く店員を尻目にオレととーるは顔を見合わせる。
「やっぱ神様はいるよね」

菊ちゃんちで打ち上げをした翌日、ライブを手伝ってくれた今泉さん(60歳)が日光まで車で送ってくれるという。
今泉さんは桐生の千手観音(マルチプレーヤー)である。
凄腕のPAであり、録音技師であり、修理工場で見捨てられた車さえリペアしてしまうエンジニアであり、写真家であり、ビデオカメラマンであり、農夫でもあり、グルメでもある。
しかも通な温泉や観光案内までしてくれるとは、なんたる幸運。オレととーるはルンルン気分で今泉さんの車に乗りこんだ。
見事なクスノキがある日枝神社、古い山門がわびさびをかもしだす鳳仙寺などをまわり、あこがれの「コロリンシューマイ」へいった。
「昔はね、車3台くらいで売り歩いていて、おやつにコロリンシューマイを食うのがとっても楽しみだったの」今泉さんが言う。
住宅街に車がはいるとノスタルジックな建物が近づいてくる。
「うっわー、定休日だ!」
あきらめて帰ろうとしたときに、となりの家で立ち話していたおばちゃんがやってきた。
「あんたらコロリンシューマイにきたの?」
「そーです。ぼくなんか北海道からきたのに、残念です」とーるが言う。
「家で蒸かすんなら、あるよ」
ええー、このおばちゃんはコロリンシューマイの人だったんだ。定休日なのにわざわざ店を開けてくれた。オレととーるは顔を見合わせる。
「やっぱ神様はいるよね」
今泉さんちで蒸かしてもらい、特製ソースと青海苔をかけていただく。シュウマイと呼ばれているが、肉ははいっていなくて、むしろすいとんなどに近い。すりおろしたジャガイモに豚の脂を練りこんだ庶民の味である。
080519コロリンしゅーまい

今泉さんは農業もやっていて、サヤエンドウをもらう。収穫するオレたちを見てとーるが言った。
「今泉さんは収穫と言う感じがしますが、アキラさんがやると野菜泥棒にしか見えませんね」
080519さやえんどう「ほっとけ、わりゃあ!」

温泉が飲める敷島温泉「ふれあいの家」でくつろぐ。牛を盗まれ、洞窟に首が転がっていたという地元のおっちゃんの話がおもしろかったー。
群馬県はB級グルメの宝庫である。200円のおでんと味噌味の焼きまんじゅうが有名な「福増寺屋」、
080519だんご

トラック野郎に絶大な人気を誇る「永井食堂」のもつ煮を食べる。
080519もつ煮

沼田の棚下にある不動の滝へいったとき、事件は起こった。
200段近い階段をのぼり、滝の裏側に出る。美しい水のカーテンをとおして噴出すような新緑がきらめいている。
「帰りは山側から降りてみますか。あっ、とーるくん、雪駄でだいじょうぶ?」今泉さんが言った。
「雪駄暦は長いし、山で育ったので、だいじょうぶですよ」とーるが答える。
今泉さんを先頭に、とーるとオレがつづく。
「だいじょうぶかな?」
「まっ、今泉さんも60歳だしそんな無理はしないでしょう」
などといっているうちにだんだん険しい斜面になってくる。
「うわっ、これ落ちたら確実に死ぬな」
オレたちは崖にはりつくように降りていく。
瞬間、とーるがつかんでいた木の根が抜けた。
とーるは条件反射でその横にあった岩をにぎった。
ぐらっ。
それは地中に埋まった岩の一部ではなかったのだ。
とーるの頭上で人間の胴体くらいの岩がごろっと抜け落ちる。
あぶない!
とーるが90度に近い斜面を落下していく。
岩はいくつかのバウンドをくりかえし、とーるの頭めがけて落下する。
まるでスロービデオを見ているようだった。
岩の位置が見えないはずなのに、とーるはかすかに首をかたむけた。
岩が右肩にぶつかる。
かろうじて足を踏みとどまり、
谷底に落ちていった岩が身震いするほどの衝突音をあげた。
「だいじょうぶか!」
やっと下山して、傷を調べる。
土だらけのとーるは手やひざをすりむき、肩をめくると擦り傷から血がにじんでいた。もしあの岩が頭に当たっていれば、とーるは頭蓋骨陥没、そのまま失神して谷底に墜落しているだろう。
「すいません。こんなことになって」
今泉さんは恐縮している。
「岩じゃなくて、先にセブンイレブンのくじに当たっておいてよかったです」
とーるは笑顔で答えた。
080520不動の滝

翌日とーるは、肩の骨も痛まず、腫れも引いてカサブタも乾いた。ギターも弾けるし、ドラムやカホンも叩けるし、レコーディングに精を出している。
新しい力を身につけるシャーマンは、必ず死ぬような思いを経験している。このことによってとーるは生まれ変わると思う。
080519とーる怪我
そう、
「やっぱ神様はいるよね」