奇跡の出版記念ライブ | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

7月28日(月)
「あと数日かもしれません」
梅ちゃんは宣告された。
梅ちゃんの詩集の印刷があがるのは31日だ。オレは30日から2週間の東海、関西ツアーにでてしまうので出版記念ライブは不可能に思われた。
「母は31日まで生きられないんです!」
次女ルイが印刷会社にたのみこんで、奇跡が起こった。
28日になんとか5冊だけ届けてくれるという。
表紙の原画を加工したヒデと北千住コズミックソウルのコウヂと夕方4時に武蔵小金井駅で待ち合わせした。あいにくオレの列車は中央線西荻窪でおこった人身事故で15分ほどおくれたが、桜町病院までタクシーを飛ばす。
なにしろ梅ちゃんは今日のために昨日から睡眠薬の点滴を減らして待っていてくれるのだ。
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ルイやナオに迎えられて病室にはいる。
梅ちゃんはさらにやせていたが、聖母のような笑みをたたえている。目を開くことや会話はほとんどできない梅ちゃんが、いきなり手を伸ばしてきた。
細い指が若い枝のようにしなり、オレの手をつかむ。その力が、一本一本の指が、とても愛しくて頬ずりする。
梅ちゃんは今日最後に力を振り絞ってとてつもなく大切ななにかをオレたちに伝えようとしている。そう感じた。
「アキラさん、ついにできましたよ!」
ルイちゃんが真新しい本を手渡してくれる。
「す、すげー、カッコイイじゃん!!」
梅ちゃんの人生がこの一冊につまっているかと思うと、人間ひとり分くらいの重さを感じた。
「梅田智江詩集(SATOE UMEDA Anthology)」
080728poem.jpg表紙「牛のカムイ」

「おめでとう!」
オレは梅ちゃんの手に何度もキスをした。梅ちゃんの口元がふっとほころぶ。言葉はしゃべれなくても、耳は聞こえる。誰よりも明晰な意識があるのだ。
ヒデが梅ちゃんの詩にインスパイヤされてつくったネアリカ「荒野に立つ」をもってきた。チベットの青いケシが咲き乱れ、旅人はカイラス山から昇る朝日を見つめる。旅人は巨大な蝶が殻を脱ぎ捨てて飛び立つ姿を幻視する。生と死を抱合するすさまじいスケールの傑作だ。
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前回の祈りライブ同様、駆けつけてくれたコウヂは梅ちゃんの手をこすりながらヒーリングしている。
梅ちゃんの親友であるダウン症の素直とお母さん「すなハハ」さんも集まり、最強のメンバーがそろった。
できたての詩集からルイが梅ちゃんの最新作「いいな」を選び、オレの歌「Reincarnation」とコラボする。
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遠い記憶の小道で
見つけた一輪の花
摘みとろうと引き返し
もはや場所さえわからず
ひとり立ち迷う夕暮れ

長い長い旅だった
すぎていく無数の影たち
臭いたつ肌からみつく髪
笑い声だけを残し
行きつもどりつ消えてゆく

限りなく限りなく
還りゆけ還りゆけ
そこやあそこじゃない
永遠のここへと
限りなく限りなく
還りゆけ還りゆけ
過去や未来じゃない
永遠の今へと(AKIRA)

ズルズルと日々が過ぎて
眼を挙げれば
ぶら~んと巨大な舌のごとき
死が前を塞ぐ

空には風が吹き渡り
海には潮流が流れていて

ズルズルと六十二年が過ぎて
あっという間だったな

空には風が吹き渡り
海には潮流が流れていて

もうすぐだな
舌の向こう側へと
抜けるのも
いつ
どんなふうにかな(梅田智江)


脳に描かれた壁画
狩りと祭と婚礼
雨風に消えゆけばなお
鮮やかさをます色彩
遠い遠い宴よ

燃えさかってた怒りも
煮え立つ涙も静まり
引き潮に打ち上げられた
貝殻だけがひっそり
日々に洗われつづける

限りなく限りなく還りゆけ還りゆけ
そこやあそこじゃない
永遠のここへと
限りなく限りなく還りゆけ還りゆけ
過去や未来じゃない
永遠の今へと(AKIRA)

なにも思い浮かばぬが
日に五千回もそびえたつ舌を見あげる

空には風が吹き渡り
海には潮流が流れていて

いいな
鳥は
考えがないから

いいな
魚は
今だけを生きていて(梅田智江)

傷ついた舟はすすむ
血液の河はうねり
遠い昔生まれ落ちた
あのなつかしい海へと
オレを連れもどす

青い雲間を破って
光りの梯子が降りる
永い眠りにはいるとき
見上げれば空一面
降り注ぐ花 花 花

限りなく限りなく還りゆけ還りゆけ
そこやあそこじゃない
永遠のここへと
限りなく限りなく還りゆけ還りゆけ
過去や未来じゃない
永遠の今へと(AKIRA)

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オレは梅ちゃんの耳元でささやくように歌った。長女のナオが後ろから梅ちゃんの肩をさすり、次女のルイがひざまづいて梅ちゃんの手を握る。それはどんな宗教画より、どんな聖人の儀式より、美しい光景だった。こんな宝石のような時間に立ち合わせてもらえるなんて。
梅ちゃん、ありがとう、出会ってくれてありがとう。
マグマのような感謝がはらわたの底から噴出してくる。
梅ちゃん、ありがとう、すばらしい人たちと出会わせてくれてありがとう。

1、 Reincarnation(輪廻)
2、 Hello my mom!
3、 家族

ルイは自分のブログにこう書いていた。

そして2曲目、「Hello my mom!」」。
私はこの曲を聴くたびに、あのホスピスの防音室で、歌う前に「思いきり甘えちゃって!」っと言ってくれたAKIRAさんの優しい声を思い出します。
いま母を精一杯支えてるけど、やっぱりまだ甘えたい、私の中のちっちゃい子供の部分、それをAKIRAさんは解放するために歌ってくれたのだと思います。
そういう力がこの曲にはあるし、AKIRAさん自身の持つ大きな力がそうさせてくれるのだと思います。
「ママに会えてよかった ママの子供でよかった Hello Hello my mom ! ありがとう」
泣きながら、母の膝に顔を埋める私。泣いている姉。
AKIRAさんの声は、前回とはまた違って、母に語りかけるような歌声でした。

音楽ってすごいな。
そのときどきで、強くも優しくもなる。
そしてその力の精一杯を、母と私たち姉妹に向けてくれたAKIRAさん。

そして最後に、「家族」を歌おうか、と言って、「家族」を。
大好きな曲、大切すぎる曲。
みんなで、母を囲んで大合唱しました。
「ママの手をぎゅっと握ってた きみと家族になれることが うれしくて泣いた」
「ぎゅっと」のところで、AKIRAさんはギターを弾く手を止めて、ちゃんと母の手をぎゅっと握ってくれました。
すなハハさんも大きな声で歌ってくれてる。
素直君も、ずっと母の足をさすってくれていました。(以上抜粋)
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命ってすげえよ、
生きるってすばらしいよ、
それがどんなにつらくても、
この世界は生きるに値する。
それでも、それでも、
人生は美しい!

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梅ちゃんの人生を一冊にこめた「梅田智江詩集」(1800円)の予約を開始します。郵便番号、住所、氏名、電話番号、冊数、を書いてメールしてください。
simanekohena@yahoo.co.jp(ルイ)
明日31日に1000冊が届き、すぐルイとナオが発送してくれます。本といっしょに振込先を送りますので、本1800円+送料200円を振り込んでください。
友人だから言うのではなく、梅ちゃんは現代詩を代表する本物の天才です。梅ちゃんの詩を読むと、心が自由になれる。まるで透明な雨に洗い清められた大地のように力をもらえます。ぜひぜひ読んでください!