横浜ライブレポート1 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 江古田にあるリコ邸で朝起きると、のどが痛い。
 のどの奥に炎症のような塊がつまってる気がする。ライブまえは体調に気を使うのよ。のどを守るためマフラーして寝たり、風邪をひかないように厚着したり、横断歩道を左右見てわたったりする。だってオレひとりの体じゃないから。100人ライブにきてくれるなら100人の観客とスタッフとバンドと、オレの背中に100人が組み体操のようにのってる。もしくはオレののどに100人が「ニャンマゲに飛びつこう」のごとくバームクーヘン状に巻きついている。
 しかし支えてくれるのもその100人である。
「そうだ、ホメレメがあった」
 沖縄ライブの主催者ヨウコが送ってくれたホメオパシー(対称療法)のレメディー(錠剤)をとりだす。「アコナイト」はのどの痛みがはじまったときに、フェーラム・フォスはのどの炎症に、マーキュリーは潰瘍化したのどに効く。2錠ずつを舌下にいれ、30分もすると痛みが嘘のように治まる。ホメはシャーマンの治療のように実践的に効く。

2月26日(日)
横浜グラスルーツ
1 痛いの痛いのとんでけ
2 Hello my mam !
3 Sorry
4 インラケチ
5 Be yourself
6美しい歌を聴くのはきっと悲しい気持ち
7 moon time
Ballafon & Percussion
8 テオナナカトル
9 ミタクオヤシン
10 Brave heart
11だいじょうぶマイフレンド
12 fragile
13 Happy birthday
14 Dancing BUDDHA
15 ぬちどう宝

 メンバーを乗せた車が渋滞につかまり、1時間も入りが遅れてしまった。
 あせる、あせる、 昨日は6時間もリハができたのに、今日は1時間もできない。ピアノの変換プラグがない、セッティングに時間がかかる。しかもあいにくの雨である。お客さんには申し訳ないが雨の中を40分も開場を遅らせてもらった。
  横浜グラスルーツは有名無名ミュージシャンが数々の伝説を生みだしたライブハウスである。カリスマ性と思いやりをかねそなえたオーナー・サマにひきいるスタッフもすごく楽しそうに働いてくれる。店のデコレーションもかっこいいなあ。天井にはりだした枝に虹色の布がかかり、なにやら風船のようなものがはいっている。
 前日の江古田倶楽部は1曲ごとにドアを開けないと酸欠になりそうな寿司詰めだったのに、さらに今日もぎゅうぎゅうだ。観客の波が目の前1メートルから後方に広がっている。
0602横浜ライブ1photo by YUYA

 オレたちはバレー部のごとく手を真ん中にのばし声をあげる。
「いくわよ~」
「おら~い」
 1曲目からガツンと飛ばそう。世界でも類をみない「虐待」をテーマにした歌だ。

「痛いの痛いのとんでけ」

痛いの痛いのとんでけー
空の果てへとんでけー
魔法かけて 傷を消して 抱きしめて
痛いの痛いのとんでけー
地の果てへとんでけー
頭なぜて 涙ふいて 笑って

生まれてきちゃいけなかった
望まれなかった
ここにいてはいけなかった
なにかまちがってた

もういいかい? まあだだよ
もういいかい? もういいよ
みんなどこへいったのかな
わたしを見つけて

生きつづけちゃいけなかった
求められなかった
わたしだけがいけなかった
みんな正しかった

もういいかい? まあだだよ
もういいかい? もういいよ
君はどこに隠れてるのかな

痛いの痛いのとんでけー
空の果てへとんでけー
魔法かけて 傷を消して 抱きしめて
痛いの痛いのとんでけー
地の果てへとんでけー
頭なぜて 涙ふいて 笑って

甘えることできなかった
愛されなかった
嫌われるの怖かった
いつもひとりだった

もういいかい? まあだだよ
もういいかい? もういいよ
みんなどこへいったのかな
わたしを見つけて

怒鳴らないで ぶたないで
いい子になるから
知らないふりしないで
言うこときくから

もういいかい? まあだだよ
もういいかい? もういいよ
君はどこに隠れてるのかな

痛いの痛いのとんでけー
空の果てへとんでけー
魔法かけて 傷を消して 抱きしめて
痛いの痛いのとんでけー
地の果てへとんでけー
頭なぜて 涙ふいて 笑って

心の傷かくしてた
大人になっても
友だちにも言えなかった
信じられなかった

もういいかい? 君に言うよ
ほんとは淋しかった
もういいかい? 君が好きだよ
ほんとは愛されたい

君と出会って気づいたんだ
なにかが解けたんだ
受け入れないことから
苦しみははじまる

わたしは産まれる前から
わたしであったということ
「すべて」であったということ

痛いの痛いのとんでけー
空の果てへとんでけー
魔法かけて 傷を消して 抱きしめて
痛いの痛いのとんでけー
地の果てへとんでけー
頭なぜて 涙ふいて 笑って

 パーカッションのリエちゃんがなんと両親を連れてきている。親を呼ぶって並大抵の信頼感じゃないよ。リエちゃんがONSENSの歌を自信をもって両親に紹介してくれるなんて、「リエさんを嫁にください」って頭をさげる恋人のように緊張&うれしーのである。
 言葉を覚えはじめた子供にきくと、お母さんのお腹にいた記憶があるという。ヴァージニア大学医学部精神科主任教授のイアン・ スティーブンソン博士は、生まれるまえの記憶をもつ人々について数千例ものデータを集めている。深層心理のトランスパーソナル領域にはじめて踏みこんだ歌をリエちゃんの両親に捧げよう。

「Hello my mam !」

Hello my mam !
わたしおぼえてるの
ママのおなかって
とてもあったかかった
キックして夢見て眠る
ママの歌きこえていたよ

Hello my mam !
ちょっと怖かったんだ
くらいすべり台
つるんとでたとき
まぶしすぎる光のなか
ママの笑顔わすれないよ

ママに会えてよかった
ママの子供でよかった
ママを守るため生まれてきたんだ
ママに会えてよかった
ママの子供でよかった
Hello hello my mam !

Hallo my mam !
わたしおぼえてるの
おへそのヒモ
ハサミで切られちゃった
タオルはちくちく
体重計はひやひや
ママはそっと抱いてくれたね

Hello my mam !
すごく不自由なんだ
しゃべれないし
体も動かない
泣いてるんじゃない
歌ってるんだ
ママの唄歌ってるんだ

ママに会えてよかった
ママの子供でよかった
ママを守るため生まれてきたんだ
ママに会えてよかった
ママの子供でよかった
Hello hello my mam !

Hello my mam !
わたしおぼえてるの
ママに会うまえは
神様といたんだ
天国のテレビで見たよ
ママとパパの結婚式を

Hello my mam !
自分で決めたんだ
ママの子に
なろうって決めたんだ
だって世界中で誰よりも
ママのこと大好きだから

ママに会えてよかった
ママの子供でよかった
ママを守るため生まれてきたんだ
ママに会えてよかった
ママの子供でよかった
Hello hello my mam !

 今回の選曲は偶然にも親子テーマがつづく。誰もが両親の期待にこたえようと葛藤し、思い通りにならない自分に挫折し、いつか親を許すときが自分を許すときだと気づく。親も自分と同じひとりの人間であり、不器用ながらもせいいっぱいの愛情をそそいでくれたことに「ありがとう」を言える日がくる。

「Sorry」

Mama sorry I'm sorry
こんなはずじゃなかったんだ
期待どおりになれなくて
sorry

Mama sorry I'm sorry
一生懸命やったんだけど
いい子にはなれなかったよ
sorry

空はこんなにも大きくて
僕はこんなに小ちゃくて
わかってるよ わかってるよ
愛してくれて ありがとう

Papa sorry I'm sorry
どうしようもなかったんだ
思いどおりになれなくて
sorry

Papa sorry I'm sorry
僕なりにがんばったんだけど
偉い人にはなれなかった
sorry

太陽はこんなにも輝いて
僕にはまぶしすぎるよ
わかってるよ わかってるよ
愛してくれて ありがとう

Baby sorry I'm sorry
君のせいじゃないんだよ
すべて僕が悪かった
sorry

Baby sorry I'm sorry
もう一度やり直せるかな
ひざの砂をはらって
sorry

世界はこんなにも頑丈で
僕はこんなにも無力で
わかってるよ わかってるよ
自分でも わかってる

夢はこんなにもふくらんで
僕はもう支えきれない
わかってるよ わかってるよ
自分でも わかってるんだ

わかってるよ わかってるよ
自分でも わかってるんだ
わかってるよ わかってるよ
愛してくれて ありがとう

 つながりを断ち切られた現代では人間関係で悩むことが多い。いやな上司、いじわるな友だち、憎らしいライバルなどなど、こいつさえいなければと思ったりする。そんなときメキシコの先住民マヤ語のあいさつ「インラケチ(わたしはもうひとりのあなたです)」には世界観を逆転する力がある。どんなにそりの合わないやつもどんなにひどい目にあわされたやつも、「自分を成長させるために悪役として登場してくれたんだ」と思う。
 他者は自分の鏡であり、
 自分を取り巻くしょうもない世界も鏡である。
 ならば世界を変える必要はない、
 自分が変われば世界が変わる。

「インラケチ」

わたしはおまえの影であり なお
おまえはわたしの影である そう
おまえはひとりぼっちなんかじゃない
インラケチ インラケチ

わたしはおまえの父であり なお
おまえはわたしの母である そう
すべての出会いが魂の家族
インラケチ インラケチ

インラケチ インラケチ
夜明けは忍び足でやってくる
インラケチ インラケチ

世界はおまえの夢であり なお
おまえは世界の夢である そう
覚醒したまま夢を見つづけろ
インラケチ インラケチ

太陽と月が結ばれる なお
天使と悪魔が口づける そう
愛と憎しみがひとつに溶け合う
インラケチ インラケチ

インラケチ インラケチ
夜明けは忍び足でやってくる
インラケチ インラケチ

わたしは名もない花でありなお
日であり美であり君であるそう
すべてものに宿りながらひとつ
インラケチ インラケチ

わたしはわたしの神でありなお
おまえはおまえの神であるそう
すべてはおまえの内に眠っている
インラケチ インラケチ

インラケチ インラケチ
夜明けは忍び足でやってくる
インラケチ インラケチ

愛がほしいとおまえが言うなお
恋をしたいとおまえが言うそう
まずは自分を愛してやることだ
インラケチ インラケチ

悟りをくれとおまえが言うなお
真理をくれとおまえが言うそう
無様なおまえがいちばん綺麗だ
インラケチ インラケチ

インラケチ インラケチ
夜明けは忍び足でやってくる
インラケチ インラケチ

おまえがおまえであればいい
おまえがおまえであればいい

おまえがおまえであればいい
おまえがおまえであればいい

おまえがおまえであればいい
おまえがおまえであればいい
インラケチ インラケチ

 会場の熱気が押し寄せてくる。100の意識の果実が左右に揺れ、自分自身に問いかけはじまる。なあなあに置きざっていた甘え、依存、他力本願、棚ぼた願望が、言葉の洪水に攪拌され、轟音サウンドに揺さぶられ、新しい知覚の扉が軋みを上げて開いてゆく。
 見栄やおごりや安っちいプライドをかなぐり捨て、
 どこまでも自分自身であれ。
 本当のつながりを取りもどすために、
 どこまでも、どこまでも自分自身であれ。

「Be yourself」

ひとりぼっちが怖いのかい
仲間はずれが怖いのかい
ひとりじゃなにもできないかい
自分を信じられないかい

なにをそんなにおびえてる
壁ははるかにそびえてる
敵は包囲網をせばめてる
自分を救うための戦争がはじまる

おまえひとりで たったひとりで
世界を敵にまわす覚悟はいいかい
世界を変えるのに血を流すことはない
おまえ自身が変わればいい

いいかい これだけはおぼえておきな
おまえの夢はおまえだけのものだ
他人に夢をあずけた瞬間
おまえは……敗北者になる

Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself

学校も会社もいきたかねえだろ
団体行動 集団責任
「和をもってよしとなす」って
他人になすって思考停止だ

やつらはおまえを洗脳する
あわれな子羊に調教する
生きてる価値もない おまえに勝ちはない
だめだ みじめだ がんじがらめだ

せまい檻に閉じこめ いがみ合わせて
やつをチクって安心かい
胸がチクッと痛んだかい
天に吐いた唾はおまえに落ちてくる

いいかい これだけはおぼえておきな
おまえはすべてを知っている
知識なんか捨てて思い出せ
野性の知性をとりもどせ

Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself

悲しみの揺りかごは居心地いいかい
涙のぬるま湯でおぼれ死ぬんかい
逃げこむ場所は檻じゃないだろ
人生相談はオレじゃないだろ

なぐさめの言葉がほしいのかい
そんなに癒してもらいたいのかい
癒し癒し卑しい魂胆
癒し癒しいやらしい下心

神や仏にすがるのかい
カリスマ教祖にみつぐのかい
宗教はマジック 集団はドラッグ
群れるな 群れるな 群れるな

いいかい これだけはおぼえておきな
おまえの中には獣が眠っている
そいつの名前を教えてほしいか
神だ! 神だ! おまえが神だ!

Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself

誰もがひとりでこの世界へ来て
誰もがひとりで去ってゆくんだ
ひとりを知るからやさしさを知る
孤独を知るから愛を知る

誰かのまねは今すぐやめろ
おまえはおまえのビジョンをもて
おまえのビジョンは誰かの夢になる
素敵な夢を見させてやれ

オレが手を貸す さあ立ち上がれ
その代わり歩くのはおまえ自身だ
オレはひとりでオレの道をゆく
おまえはおまえの道をゆけ

いいかい これだけはおぼえておきな
失敗や不幸や悲しみにあふれ
思い通りにならないからこそ
人生は愚かしく……愛しい

Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself
Get up stand up be yourself

 えーっ、こんなすげえライブ今までなかったぞ。オレたちがひいちゃうくらいに会場は熱狂の渦と化す。タケちゃんがはじめて作詞作曲ボーカルを担当する曲だ。ついこないだまで「おれは歌にがてですからあ」とか言っていたのになかなかどうして、堂々とした歌いっぷりには恐れ入った。

「美しい歌を聴くのはきっと悲しい気持ち」

窓に広がる 乾いた故郷
ビルと顔と記憶映りこむ
色褪せてく鮮やかな未来浮かべ
水溜り灰色煌めく

踊ったことはなく
煙に寄りかかるよ
破れた靴に溢れる
盲目を眺めていた

美しい歌を聴くのは
きっと悲しい気持ち
すり切れたページをめくって
走る電車見えてきたよ
旅立ちの駅
まっすぐな細長い木々を走る

窓に注す赤く眩しい陽光
遮る手を外し見上げたよ
鳴り響くベル耳をつきさす
閉まるドア滑り出すホーム

別れてゆくときが
静かに訪れているよ
大きなコートに隠した
地図を広げてみようかな

美しい歌を聴くのは
きっと悲しい気持ち
持っているコイン全て
にぎりしめて
走る電車見えてきたよ
さよならの駅
まっすぐな細長い木々を走る

窓に描く曇る落書き
いつもよりも
大きく書いてみた
切符には空は映らないけど
手すりなら細く僕を写す

レールはここで終わり
列車は帰ってゆく
喉が渇いたバッグから
重い辞書を捨てて行こう

美しい歌を聴くのは
きっと悲しい気持ち
背負っている玩具を友にして
走る電車見えてきたよ
出会いの駅
まっすぐな細長い木々を走る

美しい歌を聴くのは
きっと悲しい気持ち
背負っている玩具を友にして
走る電車見えてきたよ
出会いの駅
まっすぐな細長い木々を走る
まっすぐな細長い木々を走る
まっすぐな細長い木々を走る