ジャー・ヒロさんの手紙 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

日本レゲエ界の重鎮ジャー・ヒロさんがすばらしいメールをくださったので、転載させていただきます。

平成18年3月8日(水)

 東京では数日前に「春一番」が吹いたそうだが、今日の札幌では「今年一番の吹
雪」が唸り声をあげて吹き荒れている。もう道路の表面にも、多くの屋根の上にも雪
が消えてしまい、一見もう春がくるのを待つばかりと思わせるような風景が一変して
しまった。それにしても自然とは、なんて気紛れで意地悪で奥が深いんだろう・・・
・。

 ところでAKIRAさんとタケさんに、おそらく公安方面の、警察官が訪ねてきたらし
い。ONSENSの新作「EEJYANAIKA」(エエジャナイカ)の過激な内容の詞を生みだした
作者の本心を探るためらしい。様々の凶悪な犯罪的行為を「ええじゃないか!ええ
じゃないか!」と唆(そそのか)すような言葉の行進に危険性を感じ取ったらしい。
AKIRAさんはとびきりの笑顔でケムにまいたらしいし、タケちゃんは焼きかけの魚を
焦がしてしまうという即席&天然ギャグで笑いの渦に警察官を巻き込んだようだけ
ど、僕の感想といえば、正直ドキッとして、嫌な感じだった。

 85年にジャマイカのキングストンで見た野外コンサートで驚いたのは、物々しい
警察の警備、or監視だった。パトカーが数台停まり、軽機関銃を携えたポリスが何人
も辺りを警戒している上に、会場の屋根の上には、ライフル銃を構えたガンマンまで
いた。(何これ?革命でも始まるの?)というこわ~い雰囲気だった。

 後で聞いた話だが、ジャマイカでは識字率(文字を読めない、書けない割合)が非
常に低く(発展途上国では当たり前のことだけど・・・)、メッセージや情報の一番
強力なものとして、レゲエ・シンガーやDJたちが発する刺激的或いは過激な詞がある
らしいのだ。当時は、日本でいえば米に相当する主要食品である小麦粉に毒物が混入
して、何人も死んだ事件が話題になっていた。DJたちは「ポイズン・フラワー」(毒
の粉)と呼んで、政府の責任を追及していたようだ。だからこそ、暴動を恐れて、警
察が厳重警備をしていたのだろう。

 そして同じ旅で、犯罪都市として有名なキングストンでの他のコンサートでは、や
はり野外だったが、ライブの最中に、前の方で「誰かが発砲した!」という叫び声
で、満員だった会場の数えきれない人々が、全員くるりと反転して全速力でゲートか
ら逃げ出そうとした。後ろの方で見ていた僕は、仰天しながら、何が起ったか分から
ぬまま、やはり必死で逃げ出した。結局誤報と判明して、皆は笑顔で戻ってきて、何
事もなかったようにライブは続けられた。途中で僕は引き上げたが、最後まで、つま
り夜明けまで聞こうとしていた友人の話によれば、或るDJが過激な言葉をマシンガン
のように発射しだした途端にポリスに中止させられ、ライブそのものも強制的に終了
させられたらしい。

 これが85年のジャマイカの音楽状況だった。そうそう、歌詞を禁じられた曲がラ
ジオのトップチャートで伴奏だけが流れていたのも印象的だった。ONSENSが警察に
チェックされたと聞き、そんな昔のことを思い出した。80年代の終わり頃に、当時
の人気若者雑誌だった「宝島」の読者欄で「日本が貧乏のどん底に落ち込まない限
り、私たちの心を揺さぶるような本物のシンガーは生まれないだろう」というような
内容の文章だった。何故か妙に印象的で、いつまでも記憶に残り、今でも気になる言
葉だった。そう僕は「その本物のシンガー」こそAKIRAさんだと思っているのだ。

 千葉にいた頃に短期間やったアルバイトとして、ダイレクト・メールの配達という
仕事があった。田舎だったから能率的に配達出来ないものだから、仕事を請け負った
大手運送会社が、家々が田んぼや山々の間に点在する非能率な地域を個人の地元零細
運送業者に押し付けて、更にその中でも選りすぐりの非能率的な地域を、僕が担当す
る破目になったのだ。そんな場所を右往左往しても、朝から晩まで走り回って手取り
1000円にもならない、信じられない仕事だった。(え!これって日本での仕事?
ここはもしかすると、タイ?アフガニスタン?)と嘆きながらも、一ヶ月はやったか
なあ・・・。なにしろ10キロ走って、一通届けて、35円だから、やってらんない
よねえ・・・。でも金にはならなかったけど、結構面白い体験だった。日本の農村の
真の姿と出遭った気持ちになりました。まず他人が絶対行くことのない(或る意味)
僻地だった。そしてそこには、肉体的、精神的に欠陥をもった人々が、ひっそりと世
捨て人のように、社会から隔離されて生きていることを知った。

 どうしても道が分からなくなって、ぽつんと田んぼの中に建つ家の前で、「ごめん
くださ~い!」と叫ぶと、暗い奥座敷から下半身不随の男の人がずりずりやってきた
りした。そんな人に恐縮しながら、近所の家への行き方を教えてもらったりした。地
元で親しくなった人の話によれば、僕たちが暮らした千葉の田舎でも、いろいろの障
害をもった人々が、「恥を世間に晒さぬように」と、ひっそりと家の中に押し込めら
れているという・・・。正(まさ)しく、この現代日本においてさえ、一皮めくる
と、過去の非人道的な封建社会と変わらぬ状況が生きている・・・。

 でもよく考えてみると、日本という国そのものが同じ状況にあるような気もする。
学校においても、職場においても、また日常的な人間関係の中でも、肉体的精神的
に、普通じゃない、規格外れの人々の居場所がないという意味において・・・。そう
いう鬱屈した人々、或る人は「引きこもり」だったり、或る人は「リストカッター」
だったりするのだろうが、そのような人々に生きる力を与え、仲間を与え、生きる喜
びを与える唯一の存在がAKIRAさんであり、ONSENSなのだ。僕は思う。どうして、こ
の偉大な行為をマスコミも一般社会も警察も気づかないのだろう?僕は歯がゆささえ
覚えてしまう。そして特に警察などは、最悪の場合、いや現実に自殺まで試みる若者
達に、生きる力と喜びを与えるONSENSの活動に対して感謝状を出すべきなのだ。無力
な警察、無力な社会がただただ嘆いている間に、彼等ONSENSが奇跡のように光を放っ
ていることに・・・。誰一人として、ただ右往左往するだけで、何も対処できない
「心の闇」に、解決の道筋を見出した彼等に・・・。

 経済と人口と国力の面から、将来への明るい展望を失ってしなった日本と日本人だ
けど、元々そんなものは何の意味もない、ということを早く気づくべきなのだ。アジ
アやアフリカの大多数の人々がそうであるように、健やかな家族と楽しい友、そして
日々の糧があれば、今も昔も、それで充分だということを・・・。社会的地位や権力
や見栄という虚飾を人生に求めるべきではなく、豊かで贅沢な暮らしは自然破壊と環
境破壊を意味していることを悟るべきなのだ。そのような新しい価値観を求める「心
の旅」、それがONSENSの進もうとしている未来。僕はそう思う。

 人と出逢うことさえ恐れた人々が、日本各地で、まるで別人のように精力的に変身
して、積極的に仲間をつくり、ONSENSのライブを手作りで成し遂げている。こんなに
感動的なことは、そうはないだろう。そんな奇跡が日本中で起りつつあるということ
は、時代が彼等を求めているということなのだ。昔、ボブ・マーリイが予言したよう
に、「正義が、まるで地球を覆う海の水のように広がってゆく」という勢いで、
ONSENSライブを通して、新しい意識に目覚めた人々が立ち上がっていく。輝くもう一
つの未来に向かって・・・。人間と動物と大自然が安定した調和を獲得する未来に向
かって・・・。

                    札幌にて             
ジャー・ヒロ

※ジャーヒロさんの熱いメッセージがいっぱいつまった人気ホームページトレンチタウンボイス
ミクシ日記。