壁画を描くことになった | New 天の邪鬼日記

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小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 壁画を描くことになった。
 リュウの友人ミツ&カズが群馬県太田市にロック・バーをオープンする。そこで店の前面である壁に絵を描くのだ。
 今日現場を見に群馬の太田市までいってきたのよ。
 朝8:58の東武線で栃木、JR両毛線で足利、15分ほど歩いて東武伊勢崎線の足利市から準急で太田まで3時間ちかくかかった。日光ー浅草間が2時間なのにね。
 駅にミツが車で迎えにきてくれる。助手席の床に小さなスニーカーを見つけた。
「あれ、子供いるの?」
「ええ、長男がひとりいて、二人目を妻が妊娠中です」
 ミツはリュウと同級生だから30代前半だろう。
「ちょっと不安ですけど、サラリーマンをやってこつこつと金を貯め、やっと長年の夢を実現させたんです。たとえ安定した収入を捨ててでも自分の好きな道を選びたかったんです」
 ニキビ面だが、けっこうイケメンのミツは子供のような目をキラキラさせて言った。
「……ええじゃないか。よーするにい、子供にとっては金があってしょぼくれてるオヤジを見て育つより、金がなくても生き生きしてるオヤジを見て育った方がいい教育なんじゃないの」
「金がなくてしょぼくれたオヤジにならないようがむばります」
 店の名は「SLY」。
 「ずるがしこい」とか、「いたずらな」、「おちゃめな」という意味である。オレも大好きな硬派ファンクバンド「スライ&ザ・ファミリー・ストーン」からとった。
 駅から徒歩で5分くらいだろう。駐車場で車を降りると、ミツはけっこう高いマンションビルを指さした。
「あそこの2階です」
 階段をあがるとけっこう広いベランダぞいに飲み屋などが4軒ほどならんでいる。工事中の店はなかほどにあった。
 壁は真新しい白である。そこによこ270cm、たて180cmの壁画を、3枚のパネルでとりつけるという。野外なので、天候に左右されるからオレは作品を日光の自宅で描くことにした。明日の夜にリュウがパネルを日光に運んでくれる。
 絵柄は彼らに決めてもらった。
 レッド・ホット・チリ・ペッパーズの天才ベーシストFLEA(フリー=蚤)の後ろ姿である。最初はジミー・ヘンドリックスでいこうとしたらしいが、ありがちだし、オレもレッチリのほうが世代的にいいと思う。
 ミツとカズは「絵柄まで指定したら芸術家のアキラさんに失礼なのではないか?」とかリュウに相談していたらしいが、オレはぜんぜんそんなプライドなんかない。
 注文の絵は職人としてきっちり仕上げる。ギリシャでも似顔絵屋やってたし、イタリアでも注文の肖像画を描いていたし、日本に帰ってきたころはレストランの内装や壁画で食ってたし、注文画家としての腕も一流だぞ。(今でも肖像画を依頼の方は5万円から受け付けます)
 正面の壁を飾る壁画は店の顔である。ミツの家族の運命もかかってるし、なるべくたくさんの人を惹きつけられるような仕事をしよう。