沖縄ライブレポート3 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

0604宮古樹上 photo by yoko


 4月15日(土)

 宮古島の飛行場を降りると、南国だった。

 沖縄本島では雨がつづき肌寒くさえあったが、宮古は台湾と本島の中間に位置する。

数年前渋谷のネアリカ展にきてくれたたまみちゃんが懐かしい笑顔で迎えてくれた。たまみちゃんは沖縄本島に12年住んだ後、現在宮古島にある養護学校に勤めている。

7年間石垣島在住のヨウコは数年前からメールをやり取りしていたものの初対面である。一見おとなしそうに見えるが芯のしっかりした姉御である。彼女が今回の離島ライブをすべてコーディネイトしてくれたのだ。それどころか昨日から宮古入りし、原チャリで4車線を逆走しながら(石垣には2車線しかないそうである)、宣伝活動をおこなっていた。

空港から直接「エフエムみやこ」のラジオ局へむかう。

前に送っておいたデモCDをディレクターが気に入ってくれ、ヨーコの宣伝活動も相まって15分もの特別枠を設けてくれた。オレはさっそく本棚にあった宮古の情報本からグルメ情報をメモする。

ほとんど打ち合わせもなかったが、「世界一腰の低いロックバンド」オンセンズは終始アドリブギャグで番組を終えた。

0604FMみやこ photo by yoko

その後、「いんぎゃービーチ」の崖からから飛び降りる覚悟で食っちゃいました。老舗「のむら」の伊勢エビ定食(1980円)。しかし我々は宮古に伊勢エビを食いにきたのではない。「福久助」のヤギ味噌ラーメンを……じゃない、ライブをしにきたのだ。

今夜の会場はいんぎゃービーチそばの「TOMORI398」というゲストハウスである。もと農家を手作りで改装した建物はインドの安宿を思わせ、ちゃー(むっちゃ)いい感じである。大阪出身の若者ミエコ&エリがオーナーで、脱サラというか脱OLで移住した。イベントはもちろんライブをやるのははじめてだという。

「離島のさらにはずれで客がくるのかな?」と心配もつかのま、ドレッドやら、エスニック風やら、畑仕事ガテン系やら、おもしろそうな若者たちが集まってきた。町内会の寄り合いみたいなアットホームな感じでライブは盛り上がる。じっと目を閉じて聞き入る人や涙を流しているやつもいる。

0604TOMORI  photo by yoko


はじめての投げ銭ライブにもかかわらず、CDや本がどんどん売れる。しかも今日きたやつらが「また明日も来まっす!」とキラキラ目を輝かせてハグしてくれるんだ。

あったけーなー、宮古島。南の島でこんなに受けちゃっていいのオンセンズ!

4月16日(日)

「自由自在空間 久松館」は70年代ヒッピーの流れをくむ佛原(ぶつはら)さん&清水さんが経営する宿だ。こちらも手作りですげーセンスある空間に仕上がっている。

前座で出た地元バンド「ゆるゆるず」(テツ&ユウ&タカシ)が心温まる演奏で盛り上げてくれる。

オンセンズが出る頃には奥の座敷に泡盛を持ち込んでいた人たちもほろ酔いかげんで、昨日の連中がジャンベやディジュリデューでコラボし、オーナーの清水さんが踊りだすとみんな立ち上がってクイチャー(宮古の踊り)をはじめる。ううむ、「人の一生屁のごとし」、「虹の戦士」、「ハッピーバースデイ」に宮古民謡の踊りかよ。

こわい、こわいくらいにうれしいぞ、宮古島。

0604宮古久松  photo by yoko

4月17日(月)

 オレは長い間、宮古島にあこがれていたんだ。

 日本におけるシャーマニズム最後の砦であり、オレの中ではアイヌのアシリ・レラさん、アマゾンのパブロ・アマリンゴさんとならぶシャーマン、根間ツル子さんが住む島だ。

 しかし根間さんは日本中から相談者がくる人気者だし、たとえアポイントをとっても、「会える人しか会えない」と言われるイリオモテヤマネコのような存在なのだ。

 ヨウコが数日前から今日の2時にアポイントメントをとってくれた。

「えーヨウコ、日本中から悩みを持った人が集まるのにさあ、悩みのないオレたちが会いにいっちゃっていいの?」

「だってアキラさん、会いたいんでしょ」

「そりゃ、会いたい、ちゃー会いたい、死なないていどに命がけで会いたい!」

「じゃあ運命にまかせましょ」

 近所の人に根間さんの住所をたずね、沖縄瓦の古い家屋を見つけた。

「ごめんくださーい」

 玄関を入ると電話中の根間さんと目が合った。

 すべてを見透かすような鋭さと包み込むようなやさしさがある。この目はどこかで知っているぞ。そうだ、レラさんの目だ。オレの中で勝手に北(北海道)の大地母神アシリ・レラさんと南の大地母神根間ツル子さんが合体した。

 白髭の老人の絵が飾られた祭壇を背にし、根間さんと向き合う。と、ヨウコがトイレにいってしまったので、オレはビビった。しかたなく、持参した「神の肉」とCD「ぬちどぅ宝」をさしだす。

「これは自分の父親が突然死んでしまったとき、死者の国にいる父に会うためメキシコでシャーマンの儀式を受けに行く自伝です」

 ヨウコがもどってきたので、根間さんから「今日はどんな相談できたの?」と聞かれると思いきや、想像を絶する展開が待っていた。

 根間さんはいきなり最近死んだ弟の話をはじめたのである。

しかも3時間ぶっつづけで。

プライベートな内容はあかせないが、ヨウコはコンタクトレンズが目の裏側に挟まってしまうほど号泣し、オレは強烈な磁場に吸い込まれるように聞き入った。

ふだん根間さんは悩める人の相談を受け、ひざを叩きながら神唄を歌い、神さまからのメッセージを相談者に伝える。

「あたしは他人の相談は答えられるけど、神事が終ると自分にもどちゃって、もう弟のことを考えると悲しいやら悔しいやらでどうしようもなくなっちゃうの」

時々涙をふきながら語る根間さんの姿がひとりの人間として胸に迫ってくる。じっとじっと聞き役にまわって、最後に自分の感じたことを言った。

「オレは父親が死んで根間さんのようにやるせなくって、茶碗を見ても灰皿を見ても父を思い出してしまうし、1か月で10キロくらいやせました。メキシコのシャーマンの儀式で父から聞いたメッセージは、こんな感じです。父はオレを悲しませるために死んだんじゃない。オレを守ってくれるために死んだんだと。実際父の死後、新しい運命がどんどん動き出しました。この本も書けたし、ネアリカという絵画をボランティアが500人も日光に集まって作ってくれたし、今は音楽で沖縄にも来られました。だから悲しみのぬるま湯につかっていると死者の大切なメッセージを聞き逃してしまうし、弟さんもなにかを伝えたかったんだと思います」

 根間さんはトイレに絶つ間際、にっこりと振り返ってこう言った。

「この本を読んだら、あたしもなにかがわかるかもね」