沖縄ライブレポート4 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

4月20日(木)
 石垣島から高速ボートで40分、日本最後の秘境西表島へむかう。
見る見る間に天候が悪化し、不吉な予感である。上原港に到着する頃には、どしゃ降りの雨になる。港からバスで遊覧船乗り場にいき、浦内川をボートで30分ほどさかのぼる。
 島の90%が亜熱帯のジャングルにおおわれ、アマゾンをほうふつさせる風景だ。バックパックにキャンプ道具を積み込み、ジャングルに分け入る。マリュドゥの滝、カンピレーの滝までは観光客用に道が整備されているが、そのあとは獣道のようなトレッキング・トレイルがつづく。
 雨は植物たちの祝祭である。
 マングローブやシダ植物がエメラルドのような輝きを放つ。圧倒的な緑に包まれていると不思議な陶酔感がこみあげてくる。視界から滲入した色素が全細胞に染み込み、雨林の一部に同化していくような快感である。
 巨大な岩石が川沿いに広がる軍艦岩は壮大な眺めだ。ほとんどが川いっぱいに張り出しているジャングルがこの広い岩盤によってさえぎられ、視界が広がる。
 軍艦岩からさらに深いジャングルにはいっていく。タケちゃんはゴアテックスの上下を着ているが、オレはヨウコに借りた合羽とサンダル靴なのでずぶ濡れである。
 ふと首のあたりで何かが動いた。
 指で払おうとしたとたん、ヌメっとした感触がはなれない。
 うおー、軍手には血がついている。
 ヒルだ、ヒルだ! よく見ると足元から腕まで宇宙生物のように奇怪な頭を振ってヒルがはりついている。
 雨で活動を活発化させたヒルは、樹上から獲物にじゅうたん爆撃を仕掛ける。まさにどしゃ降りのヒルである。ヒルは黒いものを狙う習性があるので、オレのバックパックやパンツや靴は絶好の標的になる。ここのヒルをすべて六本木ヒルズに移住させたい。
 西表ライブは会場の問題がいろいろあったので、「イリオモテヤマネコに歌を聞かせる」というコンセプトで、ジャングルを歌いながら行進する。しかしヤマネコ・ライブから「ヒルに歌を聞かせる」というヒル・ライブになってしまい、歌に酔ったヒルがオンセンズに群がってしまった。血まで吸い尽くす歓迎のキスだ。
 途中で道を見失い、危険な川っぷちを歩く。雨で地盤がゆるんでいるので滑りやすく、サンダル履きのヨウコが何度も転倒する。
 やばい、完全に迷ってしまった。
このままでは遭難する。タケ隊長が正式ルートを発見しなければ、ヒルの餌食になり、全身の血を抜かれていただろう。
 マヤグスクの滝までいくはずだったが川が増水して渡れない。「第二山小屋あと」と呼ばれる5メートル四方の空き地にテントを張る。
 降り止まぬ雨の中でインスタントラーメン「サッポロ一番」に柿の種をかけて食う。ううむ、野趣たっぷりの美味、柿の種ラーメン。つーかこの危機的状況では何を食っても美味く感じてしまう0604西表島
photo by yoko

 ん、なんだこの陸ヒジキ?
 おおー、世界初のヒルラーメン! しかも自分の血まではいってる。
 キンカンがなかったので、ジャックダニエルをかけて全身のヒルを落とす。あの引っぱってもはなれないヒルがバーボンに酔うと、ウソのように落ちてくれるではないか。
 夜はホタルの群舞に見送られながら濡れた寝袋にくるまる。暗くなったらやることがないので眠るしかない。
 朝起きると寝袋の足元がねばねばしている。裏返すともう殺人現場のような大量の血で染まっているではないか。満腹でパチンコ球くらいに膨れ上がったヒルが3匹ほどころがる。オレの足首は血だらけだ。
 アマゾンにもたくさん危険生物はいるが、こんなにヒルで苦労したことはない。オレたちは出血多量を生き延び、西表(参道)ヒルズ・ライブを終了した。

4月21日(金)
石垣島から高速ボートで1時間、日本最南端の波照間島に上陸した。港には今夜のライブ会場「パナヌファ」のオーナーであるジュンさんと、ヨウコの親友えっちゃんが迎えにきてくれた。
オレたちが8日に来沖して以来、雨続きだった天気が快晴である。西浜荘に荷物を置き、ジュンさんに島を案内してもらう。
シムスケーの井戸、先住民たちの部落あとは、鈍感なオレでもなにか霊気のようなものを感じる。ジュンさんは不思議な能力があって、過去に住んでいた祖先たちの姿を見ることができるという。
波照間の人々は南に「パイ・パティローマ」という理想郷があると信じていて、横並びした神官たちが南に向かって祈りを捧げるペムチ海岸の森もすがすがしい気が満ちていた。
このような聖地にはいるときや出るとき、霊に向かってあいさつする波照間独特のしぐさがある。中指を軽く噛みながらお辞儀するやり方だ。これはジュンさんが地元のおばあから教わったという。
西の浜ビーチでシュノーケリングを楽しむ。ほんのちょこっと潜っただけで色とりどりの魚たちが見られるすてきなスポットだ。悪天候とハードスケジュールでなかなか海にはい
ジュンさんの店「パナヌファ」は地元でも人気のレストラン兼ライブハウスである。おおたか静流さんや下田逸郎さんなどもライブをやっているし、友人の作家田口ランディさんもきている。
0604波照間島 photo by yoko

「こんな最果ての島でお客さんくるかなあ」と心配していたら、くるわくるわ、40人もの超満員である。
はじめにシンセギターのジュンさんのと三線&ボーカルのヨシミちゃんが沖縄民謡を現代的にアレンジした楽曲を演奏する。彼らは沖縄のインディーチャート3位の実績がある。お客さんも目を閉じながら幻想的でノスタルジックな演奏を「いろんなイメージが浮かぶわあ」と聞き入っていた。
オンセンズのステージは毎回奇跡の連続だが、今回も凄かった。いきなり号泣する女の子や目を閉じてトランス状態になる観客など、最後はみんな踊りだし、4回もアンコールされ、いつ終らせてくれるのかこっちが恐くなるほどの大盛り上がりだった。

4月22日(土)
 石垣島の繁華街にある「カフェ・タニファ」は、ニュージーランドの地図やマオリ族の彫刻などが飾られ、落ち着いた雰囲気の店である。オーナーのクリさんとフサさんも「かっこいい大人」で、自然体で歓迎してくれた。
 「アースデイのイベントと重なってしまったのでお客さんが来ないのでは?」と危ぶまれたが、昨日の波照間ライブを見た人たちがわざわざやってきてくれたり、これまた満員の大盛況だった。石垣に住むヨウコが町じゅうにポスターを貼りまくってくれたおかげである。
ライブでは地元の女性たちが「いたいのいたいのとんでけ」などで泣き出し、本土から移ってきた若者たちが熱狂し、またもやアンコールが相次ぐ「オンセンズ・マジック」炸裂だった。しかもライブ終了後はノリノリのサルサ大会というわけのわかんない展開で深夜まで盛り上がった。

4月23日(日)
 いよいよ今日で沖縄&離島ツアーがすべて終了する。
 「子供たちもいっぱいくるから、歌とお話をおりまぜたものをやってみない?」という提案をヨウコがしたが、当日まで何の準備もしていなかった。
 ひとり早起きしたオレの頭にインスピレーションが降ってくる。
「そうだ、オペラをやろう!」
 オンセンズの歌にストーリーをからめ、一大叙事詩を織り上げるのだ。壮大な構想に対して時間がない。あとライブまで3時間ほどだ。
 このライブのためにヨウコの友人オビがすてきなポスターを書いてくれた。亀の甲羅からツタが生え、まわりを虹が取り囲んでいる。
ヨウコがつけたタイトルは「虹の輪」である。
 ううむ、虹の輪、虹の輪……。そうだ、主人公の少年が失われた虹の輪を取り戻しにいく原型神話をつくろう。ロールプレイングゲームや「ロード・オブ・ザ・リング」、「ドラゴンボール」、「ドン・キホーテ」から拙著「アヤワスカ!」や「神の肉」も原型神話で成り立っている。
 主人公の少年は「イリス」。「不思議の国のアリス」にもかけて、スペイン語の虹「アルコ・イリス」からとった。イリスを7つの島に導いていく海亀は「ティム」。英語の亀「タートル」からトランスパーソナル心理学者チャールズ・タート、サイケデリック・ムーブメントの教祖ティモシー・リアリーから名付けた。
 亀の甲羅は13個、月の満ち欠けは1年に13回、マヤの聖数13から、13曲を選び、ストーリーにそって並べていく。
 細かい内容はないしょにしておくが、一瞬にして完璧なストーリーがビジョンとして浮かび上がった。
 オレは狂ったようにパソコンに向かい、物語を書きはじめる。
 3分の1ほど書いたところで時間である。
 会場の「地母屋」(じいまみいや)は、古い民家を改造したアジアン雑貨やスパイスの店である。オーナーのソウとアヤがいきなり冷えたオリオンビールを出してくれる。カエデとクウタという子供もいるいかしたカップルだ。
タケちゃんとハイビジョン鈴木が先にセッティングしてくれ、オレが着いたのは開演10分前だ。畳張りの会場には子供を連れた若いカップルたちが今か今かと開演を待っている。昨日のライブに来てくれた人たちや、オレの本を全冊2週間で読みきったマリちゃん、宮古島で泊めてもらったタマミちゃんもきてくれ、今日も満員御礼である。
「ラプソディー・イン・ブルー」を「虹の輪 レインボウズ・リング」に変えたテーマ曲からはじまり、虹の国の伝説をオレが語り出す。タケちゃんが絶妙のBGMを添え、観客たちは不思議なおとぎ話にひきこまれていく。
2曲目の「背中」から会場はすすり泣きに包まれる。脚本を書いていない残り3分の2はアドリブである。しかしオレはもうトランス状態で言葉が勝手に湧いてくる。11曲目戦闘シーン「WAR!」、12曲目の「虹の戦士」で最高潮に達し、ラストの「Happy birthday」で大円団を迎える。
民家は大きな歓声につつまれ、長い空想の旅を終えたみんなの顔に笑顔がもどる。初挑戦のオペラながら、想像を絶する大成功である。いつかフルバンドのライブでもこのオペラをやってみたい。大げさに聞こえるかもしれないが、この処女オペラに立ち会った人は、なにかまったく新しい創造の瞬間を目撃した歴史の証人になるかもしれない。
0604石垣島 photo by yoko

 「オンセンズのライブは楽しいだけの音楽体験にとどまらず、自分自身の生き方まで問い直さざるを得ないイニシエーション(通過儀礼)」とよく言われるが、今回の沖縄ツアーでさらにパワーアップした気がする。
 そしてオレたちの音楽が沖縄でこんなにも熱く迎えられたことに驚いた。
 沖縄独自の精神性とオンセンズがもつ精神性がぴったりと符合し、人間本来の生命力が共振現象を起こす。
 本当に最高の旅だった。
 本島ライブを企画してくれた見和とミウ、離島ライブのヨウコに最大の感謝を捧げる。
 そして心やさしく受け入れてくれた会場のオーナーたち、南国で出会いを果たしたソウルメイトたち、本当に本当に、ありがとう!
 秋にはフルバンドでもどってくる。そして離島ツアーもアキラ&タケでまわる予定である。
 また必ず会おう!