オレはアマゾンのジャングルで断食したとき、壁のない小屋で暮らした。
熱帯地方には壁のない家屋がけっこうある。しかし世界中探しても屋根のない家はないのだ。だいいち屋根のない建物は家とは呼ばない。ただの塀か囲いか、牧場か露天風呂だ。
今までオレは何度も自分で屋根を直してきた。キッチンと風呂場の上、書斎とベッドルームの上、それらはまだ安全な部分だ。しかし今回は道路に面した居間の上である。
うちは石垣のうえに立っていて、平屋だが屋根から道路までの高さは2階分くらいある。
もし足をすべらせて落下すれば、全身打撲。打ち所が悪ければ死亡、または植物人間として一生じょうごから水を浴びせられつづけるのだ。
運悪く登校する小学生の列に落ちれば、「罪もない子どもたちに重軽傷を負わせたモモンガ人間」として上海雑伎団に売られ、へんなポーズをとって一生客席から拍手を浴びせられつづけるのだ。
運良く屈強なホッケーチーム日光アイスバックスの選手たちに落ちれば、胴上げされたまま霧降大橋から大谷川に投げこまれる可能性もある……わけないが、
駄菓子菓子、この危険箇所をオレひとりで直すのは不可能である。
そうだ、このブログで屋根職人を募集しよう!
2000人くらいが読んでいるからひとりくらい屋根職人がいてもいいはずだ。まあ屋根職人はいなくても、大工経験者はいるだろう。
むむっ、ダイク?
第九といえば、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン。
バッハやモーツァルトなどは原語の発音なのに、なぜか「ベートーベン」だけは英語読みなのだ。ドイツ語では「ファン・ベートホーフェン」が正しい。
「van」はドイツ語の「von」だし、イタリア語の「da」(例:レオナルド・ダ・ヴィンチ=ヴィンチ村のレオナルド)、スペイン語の「de」(例:レオナルド・デ・カプリオ=カプリオのレオナルド)など、「どこどこの~だれだれ」という英語の「of」、日本語の「~の」を意味する。
オランダの画家ゴッホもオランダでは「フィンセント・ファン・ゴッホ」、英語圏では「ヴァン・ゴッホ」と呼ばれるが、「ゴッホ村のヴィンセント」という意味だ。
「van」がつくオランダの画家といえば、ヴァン・ダイクが歴史上もっとも有名である。
なにい、ダイク?
巨匠ヴァン・ダイクの絵を修復した人が日光にいる。日本屈指の修復家である秋山さんには花火大会のときにお世話になった。はじめに秋山さんに会ったのは……「幾何学堂」という夢のログハウスを建てた小坂さんの家だ。
そうだ、ダイク!
日光にはスーパープロフェッショナル大工、小坂さんがいるではないか。
「ヘンですとグレてる」が探し求めていた青い鳥は、ブログで募集するまでもなく、足元にいたのである。(まえフリ長すぎ)
今朝8:50、小坂さんの自宅に電話したが留守だった。
むむ、神々オレを見はなしたかー!
すかさずオレは仏壇にとって返し、祈った。
「My GODS……
give me YANE.
Please please give me YANE !
死んだババチョフよ、トトチョフよ、死んだ猫のラ・キアーペよ、イル・クオーモよ、
give me YANE.
Please please give me YANE !」
おおー、小坂さんの携帯につながった。
「じつは屋根が飛んじゃったんですけど」
「今、近くにきてるんで、すぐよります」
す、すげえ……祈りの効果絶大!
小坂さんは携帯の通じない足尾の現場にいくはずだったが、急きょ今市に変更になり、日光にむかっている途中だったという。明日は神奈川にいってしまうので、この瞬間に捕まったというのは幸運以外のなにものでもない。
屋根に登ってもらい、現場をチェックする。
「これならぼくが直せそうです。明日は雪が降るというし、仕事が終ってから夜やっちゃいましょう」
うおー、坊主頭の小坂さんがブッダに見えたね。
やっぱもつべきものは「友情貯金」ですな。
小坂さんは夜6時に仕事を終えてからきてくれた。
道路からはじごをかけ、足場板を固定し、屋根によじ登る。プロ中のプロであるあざやかな手際に舌を巻く。
もう暗くなっているので、投光器で手元を照らしながら仕事にかかった。友人の屋根職人から買ってきてくれたサンをかまし、風で飛んだトタンをかみ合わせる。「つかみ」と呼ばれる幅広のペンチは屋根職人独特の道具である。
オレはなにもできず、あまりにみごとな職人芸を道路から口を開けて眺めているだけだった。
小坂さんのうしろに謎の球体が浮かんでいる心霊写真
継ぎ目をアルミテープでおおって、完成だ。
す、すごい。小坂さんは3時間たらずの間にたったひとりで、完璧な修復をしてしまった。
投光器をバックに後光のさす姿は、まさに屋根の上のブッダそのものだ。
やっぱ神々はオレを見捨てていないなあ。
つーかさ、神様。ひとこと言っていい?
喝!
だったら最初から屋根飛ばすなって!!