梅ちゃん祈りライブ | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

7月12日(土)
睡眠不足で寝ぼけたまま朝6時56分の電車で日光を出発した。
これでなんとか午前10時のライブに間に合いそうだ。
ん、ここはどこだ?
梅ちゃんの病院がある駅を降りると、見慣れない風景である。
どうやら駅の反対側に出てしまったようだ。
駅にもどって反対側にでる。
あれえ、ここだったっけ?
駅の看板を見ると、
「東小金井」。
あっちゃー、「武蔵小金井」とまちがえたー!
東小金井とか、新小金井とか、武蔵小金井とか、武蔵境とか、三鷹聞いたかとか、まぎらわしい名前つけてんじゃねーよ。
15分前に着くはずが、また遅刻しちゃったじゃねーか。

武蔵小金井駅前にある宮地楽器のコンサートホールにはなつかしい顔ぶれが集まってきた。もう10年以上会ってない人がほとんどだが、みんな梅ちゃんを通じてつながった友人たちである。
北千住コズミックソウルのこうぢや梅ちゃんの本の原画加工をしたヒデやミッションポジティブの環樹さんもかけつけてくれた。
梅ちゃんの娘ルイちゃんがアナウンスする。
「みなさん、母のために集まっていただき、ありがとうございます。母もこの日を楽しみにしていたのに、容態がすぐれず、今はおきあがることができません。たいへんもうしわけありませんが、今日ここへくることはできません」
残念だが、祈りに距離はない。みんな前に集まってもらい、梅ちゃんとの関係を自己紹介してもらう。
「梅ちゃんには昔からよく泣かされました。はじめは、みなしごハッチで」
梅ちゃんは20代のころタツノコプロというアニメ会社にいて、「みなしごハッチ」というアニメの脚本を書いていた。身寄りのないハチの子が母親を探して旅をする物語で、日本中を感動の渦に巻き込んだ名作である。
自己紹介が終わり、ここから祈りプロジェクトがはじまる。
われわれが目指すのは、梅ちゃんの「ガンを治す」とか、「回復させる」ことではない。梅ちゃんが残された時間を幸せに過ごせるよう祈ることだ。梅ちゃんにはこんなにたくさんの素敵な仲間がいる。全国から祈ってくれる人たちもいる。
世界は人々の想いによってつながっている。
誰もひとりぼっちじゃないんだ。
オープニングにラコタ族の祈り「ミタクオヤシン」を歌う。

この世界が滅んでも
声からして歌うから
ひとりぼっちじゃないと
君のために歌うから

なんど涙流しても
どんな孤独の中でも
ひとりぼっちじゃないと
君のために歌うから(「ミタクオヤシン」)

娘たちは昨日医者から「もうその日単位で考えてください」と言われたという。「その日単位」というのは、「いつ死んでもいいように心の準備をしておきなさい」という意味だ。
そして「祈りの歌」。ルイちゃんは手を合わせ必死で祈っている。
080712梅ルイ祈りphoto by HIDE

今夜君は苦しすぎるから
病院のベッド 点滴のバッグ
嗚咽噛み殺す

誰か気づいて わたしに気づいて
軽すぎる命 重すぎる運命
嘆きつづける
おお不幸なる者よ
おお幸いなるかな
ぼくたちは歌う 君に歌う
すでに君は守られてる

さあとどけ 祈りの歌
君の胸へと突き刺され
さあひびけ 祈りの歌
慈悲の涙で地を満たせ

ブルースハープの大御所浅見さんが「機関車のブルース」を演奏する。浅見さんはよく高田渡さんと共演している。高田渡さんも梅ちゃんの古い友人で、細野晴臣さんがベースで参加した「ヘイ・ヘイ・ブルース」(作詞:梅田智江/作曲:高田渡) は名作である。
詩人仲間の福間健二さんも初映画監督作品「岡山の人」のなかから一編の味わい深い詩を朗読してくれた。
梅ちゃんと長い間つきあってきた女性詩人阿賀猥さんは即興で梅ちゃんに捧げる軽妙な詩を作り、涙を浮かべながら朗読してくれた。
伴奏はこうぢがもってきた円盤楽器ハングである。
カナダを拠点に世界で活躍するミュージシャンShibatenは昨日名古屋でライブがあり、急いでかけつけてくれた。沖縄で会った梅ちゃんから「シバテン」という名前をつけられたという。(YUOTUBEで演奏が見られる)
娘のルイちゃんは母の詩「残酷な果実」を朗読した。

残酷な果実 梅田智江

立ち止まってみればここは荒野
かってない荒野だ

わたしはただ縛りあわないで
愛したかっただけだ
愛されたかっただけだ
そうしてここにいる

「自由」という
それがどんなに残酷な果実であるか思い知った
他人の血も自分の血もそこに混じる
血まみれの残酷な果実

摘み取ったからには
もうもとには戻れない
戻ってはならない

荒野を歩くしかない
ひとりきりで
それでも声を呼び交わしながら

後半はオレが歌った。それぞれの歌が梅ちゃんに関するものばかりだ。
「ぬちどぅ宝」
「青空のむこう」
「Hello my mom!」
「Life is beautiful」
「家族」
みんな泣きながら梅ちゃんを思い一生懸命祈ってくれた。ライブが終わり、ルイちゃんが病院に電話すると奇跡が起こった。
梅ちゃんが起き上がり、「みんなに会いたい」という。

残った10人ほどのメンバーがホスピスにかけつけ、プレイルームで待つ。
車椅子に乗った梅ちゃんが登場した。
ガリガリにやせてはいるものの、マリア様のように微笑んでいる。
このプレイルームは患者が泣き叫んでもいいように防音が施され、ピアノもおいてある。
ついに梅ちゃん本人を前にして祈りライブができるのだ。
080712梅アキラphoto by HIDE

「祝福の歌」
「レラ」
「家族」
「Hello my mom!」
080712梅みんなで祈るphoto by HIDE

梅ちゃんはそっと目を閉じながら聴き入っている。長女のナオと次女のルイは母を抱きしめ、感謝の涙を流している。
苦しみ葛藤してきた家族が、最後に和解する。
それは見たこともないような美しい風景だった。
080712梅娘たちphoto by HIDE

ルイちゃんのブログにはこう書かれていた。

AKIRAさんの歌う「家族」という歌。
これは、ほんとうにほんとうにいい歌です。
今でも、最初にこの曲を私たち家族3人で聴いた時のことを思い出します。
夕暮れで、大学病院の個室でした。
最初のフレーズから3人とも涙が止まらなくて、用があって入ってきた看護婦さんすらドアを閉めて私たちだけにしてくれたくらい。
離婚した夫(私たち姉妹にとっては父)を、ずっと認められなかった母が、この曲を聴いて父を「それでも私たちは家族だったね」と、認められるようになったこと。
そんな、大切な、大切な歌です。
同じアルバムの中の「Life is Beautiful」は、AKIRAさんがガンで亡くなったお母さんのことを歌った曲です。
「Life is painful それでも人生は美しい」、そうAKIRAさんは歌います。
私も母も、最初にこの曲を聴いた時は涙が止まりませんでした。
そう、今、私たちは瞬間を生きているから。
いま、この瞬間、母と一緒にいられる。
それがどれだけ貴重で素晴らしいことなのか。
咲いている花に感謝し、晴れた陽の光に、雨の空気に感謝すること。
それは、母が命がけで教えてくれた、私たち家族にとってのギフトなのだと思います。(以上抜粋)
080712梅記念撮影photo by HIDE

このブログを読んでくれる「みんなも祈ってくれてありがとう」という梅ちゃんからの伝言です。ルイちゃんがみんなから送られてきたメールをプリントして、梅ちゃんの枕元で読んであげています。
引き続き、祈りと励ましのメールをお願いします。
ミクシィ「梅さん」
梅ちゃんの詩やエッセイが読めるホームページ「赤玉」を読んで。こっちのメールでもいい。
tanpopodekopon@yahoo.co.jp

祈りは届く。
想いはカタチになる。
080613梅田智江